『マルイグループユニオンの場作り』レポート(オンライン/SECILALA限定イベント)

『マルイグループユニオンの場作り』レポート(2024 年 2 月29 日)

当法人が運営しているコミュニティ「SECILALA」では会員からのエピソード(暗黙知)を発表してもらい(表出化)共通の知識とする(共同化)取り組みを硬軟織り交ぜてやっています。そのひとつとして先日はマルイグループユニオン(○|○|のマルイさんの労組です)のお二人にお越しいただきマルイグループの場づくりについてお話を伺いました。

皆さんは「労組」というとどんなイメージをもたれますか?ベテランの方なら「ハチマキ闘争」から「ストライキ」で「(ベア)ガンバロー!」、今の時期なら「春闘」でしょうか。
いい意味で今回は予想を裏切るお話でした。成功した事例というととかく企業側の視点で取り上げられがちですが、労組もここまで変われるのかと、マルイさんってスゲーなと。なぜってそこには「対立」ではなく「共創」の企業風土がしっかりと根付いていたからなんです。

スピーカー:
山崎 倫代さん(株式会社 丸井グループ マルイグループユニオン 中央執行委員)
金子 祐美さん(同)
日時:2024/2/29(木) 20:30~21:40
場所:オンライン(Zoom)
配信:NPO法人SECI プレイス
会費:無料

◆丸井グループとマルイグループユニオンについて

お話を伺うにあたって丸井グループ(以下MG)とマルイグループユニオン(以下MGU)について少々触れておきましょう。
皆さんマルイって聞いてどんなイメージを持たれていますか。大体の方はOIOI1のロゴがついた店舗をイメージされると思うのですが、事業改革を進めて今では「エポスカード」を主軸とするフィンテック事業で取扱高3.7兆円を数えるまでになっていて、他にも証券、物流、SIer、空間プロデュース、ビルマネジメントなど13の会社からなる企業グループです。
それぞれの会社は独立しつつも人事制度としては事業部制に近い柔軟性があり転籍・異動に垣根がありません。おもしろいのは会社の発令以外に社員自らの希望でどこにでも職種変更することができる、というものがあります。この制度のベースとなっているのが「手挙げ」のカルチャーです。

◆手挙げのカルチャーを育み主体的な行動変容を促す

MGの企業理念全体のベースとなっているのが「対話」の重視と「手挙げ」のカルチャーです。「手挙げ」とは自主的な行動の意思表示で、例えば社外の勉強会など学びの場だけでなく、異動や昇進についても社員自らが手を挙げてチャレンジできるように配慮されていて、社員もまたそれに応えるように参加率は85%に達しているそうです。
なかでも白眉は、トップが管理職に向けて会社の業績などを説明する中期経営推進会議も全社員が参加可能な「手挙げ方式」であることです。これなら居るだけの内職や居眠りもありませんね。

◆対話

そして手挙げのカルチャー醸成を強力にバックアップしているのが「対話2」です。
バブル後経営危機に陥ったことから2005年に社長就任した青井浩氏は、変革に向けて「人の成長=企業の成長」を理念に掲げます。人を先に持ってきたところがポイントで、この発想の転換を浸透させるために「経営理念に対する対話」をはじめます。上意下達の体質から自ら自ら経営理念について考える変革は、まず「対話とは何か」から対話することから始めたそうです。この「対話」の考え方は「場」づくりと一体不可分なもので対話があって場が成り立ち、場があって対話が成り立つ関係にあります。こうしてMGは「手挙げ」と「対話」のカルチャーをバックボーンにして企業変革を遂げ業績を回復させることができたのです。

◆SECIを回す「場」に必要なものとは

SECIモデルでは「場」づくりがとても重要なのですがただ場をつくっただけで何もしなければSECIは回りません。所属や役職、立場を越えて本音と本音でぶつかり合えること、全人格的に向き合い、受け止め、理解しあう為の「対話」が必要です。MGはいたるところに対話があり、それはMGUにもしっかりと受け継がれています。いわく新入社員と先輩社員、営業部門とシステム部門、グループ間での対話など役職や立場を越えた関係で対話の場を設けていて、これが会社としても「関係の質」の構築にも役立っているそうです。

仕事以外でも「推し」で集まるコミュニティを自主的に集まってやったりとかもしているそう。さらには会社とは別組織である労組という枠組みを活かして、同業他社や全くの異業種労組との交流など新たな気付きの創出にも一役買っているそうです。
労使共に対話のカルチャーを根付かせているので、初対面の社員同士であっても価値観の共有がベースにありますから、すっと対話の核心に入っていけるようなところがあるのではないでしょうか。
「場作りって、場を用意する、で、誰かがつくったその場にジョインするって方法ももちろんあると思うんですけど、やっぱり自ら場を作れるような マインドになる組織、風土とかカルチャーみたいなものを醸成させていくことが、場づくりの基礎になっていくのではないか」と山崎さん。場が生まれる場づくり!単発的に場をつくることはできてもそれを継続させたり広めていくには風土やカルチャーのレベルまで引き上げていくことが大切なのですね。

◆二項対立を乗り越えて

MGには「ビジネスを通じてあらゆる二項対立を乗り越える世界を創る」という2019年改定の「2050年ビジョン」があります。確かに世の中は二項対立でできているといっていいほど溢れかえっていますよね。利益vs.環境とか仕事vs.家庭とか、会社vs.労組とか。でもMGとMGUの間には対話はあれど対立がありません。春闘の季節ですがMGUでは春闘とか賃闘という言葉は使わず「共創」「話し合い」と言うんだそうです。会社に出す文書も「共創提案」。
「労働組合と会社ってゴールは一緒なんだけど、山の登り方が違う。」と山崎さん。富士山にもいくつか登山口があるけれどたどり着く山頂は一つということか。ゴールは一緒でも、お互いの立場が違うから、やり方は違うかもしれないけど、求めるところは一緒なんだよって言ったところですね。対話を通して共通の目的が理解しあえているからこそ共創ができているのだと思いました。

◆共創 ~「共」に「創」っていく

先の「2050年ビジョン」の中では実現したい社会への変化や影響をも明確化しています。

将来世代の未来をる(太字はライター)
一人ひとりの「しあわせ」をる(同)
共創のプラットホームをつくる(同)

すべてに共創が入っていることからも共に創ることが基軸になっていることが見て取れます。
この共に創る=共創経営という考え方は小売り×金融、若者×クレジットカード、カード×新規事業など、ともすると二項対立と捉えがちな事象を癒合させてきたMGの足跡と重なります。企業価値を「利益としあわせの調和と拡大」として金銭的価値以外のお金で計れない価値を「しあわせ」と置き、6つのステークホルダー「顧客、取引先、株主・投資家、地域・社会、社員、将来世代」と「共」に「創」っていく。まさに「ビジネスを通じてあらゆる二項対立を乗り越える世界を創る」ことにつながっているのです。

◆「どこでも働ける良き社会人になる」 ~MGUの組織目的

おわりにお二人の所属であるMGUの組織目的について触れておきたいと思います。
(MGUのお話なのにMGの企業紹介みたいなレポートになってしまいました。それだけ労使に二項対立がなく共創ができている証左とご笑覧いただければさいわいです。)
「どこでも働ける良き社会人になる」とは、いうなれば組合員の市場価値を高める、ということ。?労組の一番の目的は「労働条件を上げること」だったり「雇用を守る」ことだったりが大事であることに変わりはありませんが、MGUのユニークなところは、そこから一歩踏み出して、組合員個々人の資質を高めて「どこでも働ける人」「どこからも来てくれと言われる人」になる様に組織としてサポートしているそうです。雇用形態の変化を筆頭に社会環境の振れ幅が大きくなっていく近年において、仮に今の会社を離れることになっても自立していける人、ポータブルスキルもそうですが自ら考え行動するチカラをつけること、そこにつながる様々な「場」をつくっているそう。社会課題プログラムへの参加であったり奉仕活動であったり、単にボランティアへの人出しではなく、参加者の自ら考える力につながるように考えられています。こうして得た資質は課題設定力となりビジネスシーズの発見にもつながり、会社にとっても離し難い人財となり結果的に雇用の安定につながるという構図なのです。この「自ら考える力」は実は「対話」において少なからず有用な資質なのではないでしょうか。全部つながってますね。

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  1. マルイのロゴといえば○|○|=「マルイマルイ」と読んでいましたが社内ではOIOI=「オイオイ」と呼んでるとかいないとか。「自虐は愛着の裏返し」が想像できる微笑ましいエピソードですね。 ↩︎
  2. MGにおける対話は、アメリカの物理学者デビット・ボームの「ダイアローグ」をベースとして、その定義によれば「考えをはっきりと述べつつも、自分の主張や立場に固執することなく、互いの言わんとする意味を深く探求する会話」となります。 「なぜそう考えるのか」に注意を払い、明確な目的を定めない、人の意見を否定しない、いっさいの前提を排除するなどといった“対話のルール”が決まっています。 ↩︎

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◇らいたーずぼいす

お話を聞いていて「あれ、これはMGの話なのかMGUの話なのか?」わからなくなることも。それほど労使の目的が高次で一致しているからだと思いました。二項対立どころか二項共立。両効きなんですね。迎合するだけの御用組合とは次元が違う理念の共有があります。そこには対話と場と共創がみごとにシンクロしている企業文化がありました。企業文化ですから一朝一夕にできるものではないにせよ、対話が場をつくり、場が対話をつくり、共創=共に創る文化に昇華するというプロセスは読み解くことができます。対話で悩める組織は少なくないと想像しますが、ひとつの参考になるのではないかと思いました。マルイさん、面白い(素敵な)会社です。

※本レポートはオンライン聴講したライターが個人的に捉えた感想を交えたものであり、株式会社丸井グループ様、マルイグループユニオン様の公式見解とは異なる可能性があることをお断りしておきます。文責:水野昌彦

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◆登壇者の情報

金子 祐美(かねこ ゆみ)
※Facebookは戸籍姓の漆舘(うるしだて)

株式会社丸井グループ
マルイグループユニオン
中央執行委員

2017年4月、株式会社丸井グループに入社。
北千住マルイの婦人服売場に配属され、2年間プライベートブランドの販売を行う。
2019年に本社の新規事業部に異動し、食を取り巻く社会課題解決ビジネスの立案を行う。
2021年にはEC事業部へ異動し、事業企画の立案に携わる傍ら、BASE株式会社とビジネスを立案する共創チームを兼任。
その後、EC事業部内でWebマーケティング部門へ異動し、CRM・顧客戦略を担当。
2023年9月に、現任となるマルイグループユニオンへ異動。労働組合の専従役員を務める。

山崎 倫代(やまさき みちよ)

株式会社丸井グループ
マルイグループユニオン
中央執行委員

1993年 新卒で株丸井に入社
店舗配属を経て主にレディスアパレルバイヤー、プライベートブランドや自社ECサイトの立ち上げ、自主商品の顧客ニーズ開拓・商品戦略・マーケティング・ショップ店長等を歴任
2020年9月に、より現職の企業内労働組合専従

参考URL

自主性豊かな組織風土を支える「対話の文化」と「手挙げの文化」――丸井グループ
https://www.works-i.com/project/interactive/workplace/detail002.html

野中郁次郎の経営の本質丸井グループ 代表取締役社長 CEO 青井 浩氏
https://www.works-i.com/works/series/management/detail003.html

「個々人だけでなく、企業の成長にもつながる」組合員の市場価値を高めるために、マルイグループユニオンが踏み出した一歩
https://note.com/ridilover_local/n/nbadcccf2254a

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レポート作成:NPO法人SECI プレイス
MC:米山拓也@SECIプレイス
ライティング/WEB構成:水野昌彦@ideal brands.jp LLC

 

この活動は、NPO法人SECIプレイスの社会教育の一環としての位置付けです。

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